eccentric chocola talk不易流行〜コヤマススムのエキセントリック・ショコラ・トーク

 
第三話おいしい手の抜き方。

私がチョコレート・フリークになってしまったのは、
専門学校を卒業してすぐ、
スイス菓子ハイジという会社に入社したことが原因かもしれない。
当時、ハイジには「ハイジチョコ」という商品があった。
それは、ガナッシュをコロンとした直径2cm大の球に丸めて、
表面にココアパウダーをまぶしただけのシンプルな商品。
その頃、新米の私は来る日も来る日も
このドロ団子のようなガナッシュを
絞っては丸めるという単純作業に少々飽き飽きしており、
「早く、もっと複雑なボンボンショコラとか作ってみたいな…」
などと不謹慎な思いを抱いていた。

しかし、である。そのハイジチョコが売れるのである。
絞って、丸めて、店頭に出すと、とたんに飛ぶように売れる。
社長の戦略は大当たり。
そもそも、このハイジチョコ、
『ボンボンショコラをコーティングする時間がないから、
中のガナッシュだけ丸めてココアまぶして、商品にしちゃおう』
という、社長の手抜き的かつ天才的発想から生まれた商品だったのだ。
弟子も不謹慎なら、師匠もまた、不謹慎きわまりない。

ハイジチョコは、絞ってすぐが
とろけるようにソフトで、ミルキーで、最高においしい。
その誘惑に勝てず、私もよく“出来損ない”をつまみ食いしたものだ。
作ってしばらくすると固くなってしまうので、
一番おいしい“絞り立てしか売らない”という販売方法も功を奏した。
どうも“できたて”というフレーズに人間は弱いらしい。

そして、その時期を境に、私の考えにも少しずつ変化がおこっていった。
手の込んだもの、複雑なレシピのものだけが
おいしいものとは限らない。
人間の味覚を魅了するのは、
結局、こんなシンプルなものなのかもしれない、と。
余分な材料や工程を削ぎ落として行くことも、
より研ぎすまされた味覚のための
ひとつのステップなのかもしれない、と。

そんなハイジチョコのヒットに触発されてか、
以後、少しずつ世の中に類似の商品が広がりはじめた。
それらが総称して「生チョコ」という
カテゴリーで呼ばれるようになったのは、
それからおよそ10年後のことである。

 

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