eccentric chocola talk不易流行〜コヤマススムのエキセントリック・ショコラ・トーク

 
チョコレート進化論〜共時的に表れる新しい変化〜

三田の街に冷たい木枯らしが吹きはじめたある午後、
エスコヤマに一人のフランス人がやって来た。
白髪ながらも、スタイリッシュなメガネ、アゴ髭をたくわえ、
さりげなく小粋な雰囲気を漂わすその風貌は、
いわゆる“チョイ悪フランス・オヤジ”。
彼こそが、パティシエ界の重鎮として世界的に知られる、
イブ・チュリエス氏その人だ。


イブ・チュリエス氏といえば、世界に名だたる
フランス料理界のバイブル
「料理百科〜Une Encyclopedie Culinarie」の著者であり、
またパティシエ・トゥレトゥール(製菓と惣菜)、
コンフィズリー&グラシエ(糖菓&アイスクリーム)の2部門で
M.O.F.(フランス国家最優秀職人賞)を獲得するという、
前代未聞の快挙を成し遂げた人物である。
私が学生のころ、同じく菓子職人であった父の書棚に、
彼の本が並んでいたのを見た記憶がある。
父の世代のフランス料理・菓子職人にとって、彼はまさに神様。
そのチュリエス氏が、わざわざ日本のこの三田、
しかも私の店にまで足を運んでくださったのだ!!


彼をここに案内してくれたのは、とある百貨店のバイヤーC氏。
関西で行われたデモンストレーション・イベントの帰りに、
「どうしても紹介したいパティシエがいる」と、
ここまでチュリエス氏を引っ張ってきてくれたのだ。


私はいつになく緊張しながらも、パティスリーにはじまり、
コンフィチュール&マカロン、ブーランジュリー、カフェと、
くまなく店内をご案内し、見ていただいた。
「こんなに美しくカテゴライズされた空間は、世界でも見たことがない!」
彼は惜しげもなく、さまざまな賛辞を私とこの店にくださった。


そして、いよいよショコラティエSHINの店内を見学され、
いろいろなショコラを食べていただいた。
中でもとりわけ彼の心を捉えたのは、
大徳寺納豆、ゆずなど、日本の素材を使った
ボンボンショコラだったようだ。
「これであなたという人間がわかった! 日本人として、
物真似ではない、すばらしい菓子を作る人だということが!」
そう言われた時、私はうれしさのあまり、ただ頭を垂れるのみだった。


私が驚いたのは、チュリエス氏の瞬時の洞察力の鋭さ、
そして、あくなき好奇心の旺盛さだ。
見学中は、「コヤマくん、これはどうやって作っているんだ ?」
「何かいいアイデアはないかね?」と質問攻めだった。
彼ほどの大人物が、自分の影響を受けて育った
若い世代のパティシエを認め、意見を求める勇気があるということ。
“俺が、俺が”という強い自己主張がなく、
逆に、若い者から新しいエッセンスを学ぼうをいう姿勢を持てること。
ひとつの事を頂点まで極めた人間の貫禄と余裕、
心の広さはハンパではないのだ。


実はその翌日、チュリエス氏と京都で食事をし、
さらなる展開があった。
彼が以前から交流のあった日本人パティシエ
「モンサンクレール」辻口博啓氏とともに、
3人で何かを作らないか、ということになったのだ。
いろいろ話し合った結果、一人ひとりが企画した
3つのショコラを持ち寄って、「トリロジー・メサージュ」という
オムニバス的な商品をプロデュースする案で決定となった。


久々に胸躍る気持ちになった私は、
チュリエス氏の言葉にインスパイアされて、
「YABAI」を作った。
このアイデアは、チュリエス氏との食事の最後に出た
雑炊がソースになっている。
雑炊には京都特産の黒七味が添えてあり、私は直感的に
この辛さはハチミツと合うな、と感じたのだ。
例えばちょうど、砂糖をたっぷり入れて作るキンピラゴボウに、
七味の辛さとゴマの風味がぴったり合うように。


レンゲの芳香がほのかに漂うハチミツの甘さを、
ビターなカカオと、芳しい黒七味が押さえ、
シャープに研ぎ澄ませた一粒。
食べた後にふわっと襲うピリリとした刺激や、ゴマの風味は、
まさに病み付きになりそうなほど、ヤバイ。



過去と未来、伝統と革新、フランスと日本。
そんな相反する要素が複雑に絡み合っているからこそ、
菓子作りは面白い。
もっと日本人であることを大切にしよう。
自信を持って胸を張ろう。
そんな気持ちにさせてくれた、すばらしい出会いだった。








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