eccentric chocola talk不易流行〜コヤマススムのエキセントリック・ショコラ・トーク

 
第九話京都で出会った幼少期の原風景〜過去と今が繋がる瞬間〜

今回はお菓子の話ではないが、私にとって創作の原点とも言える、
心の原風景に出会う出来事があったので、それに対する想いを語りたい。

先日、京都・伊勢丹で開催された「サロン・ドュ・ショコラ」でのこと。
世界の名だたるショコラティエのチョコレートが集まるこのイベントに、
私は柚子や大徳寺納豆、黒胡椒など、日本独自の素材を用いた自信作を
引き連れてブースを構えた。京都は私が生まれ育った町であり、
「キャトリエンムショコラ・進」は私自身の日本人としてのルーツを
追求するところから生まれたショコラトリーである。
だから、京都で出店することは、私にとって特別な想いがあった。
その会場にいる時、私を呼ぶ声が耳に飛び込んで来た。

―― 進ちゃん! ――

その声の主の方向を見ると、懐かしい顔があった。
私が小学校2年生まで堀川五条の路地の奥に住んでいた家の
隣のおばちゃんである。パッと見てすぐにわかった。
「おばちゃん!」。私は瞬時に“進ちゃん”になっていた。
お互い時を重ねて色々なことがあったはずだが、
おばちゃんと私の間の時が止まったかのように違和感がない。
触発されるように当時の風景が甦る。
そうだ、私は隣の家の幼馴染の女の子に手を引いてもらわないと
幼稚園に行けないような“あかんたれ”だった。
自転車に乗って遊びに出るようになった小学生の1、2年生の頃。
車がビュンビュン通る堀川通りの陸橋を越えると、
えらく遠出をした気持ちになり、夕方なると無闇に恐ろしくなった。
寂しさに襲われて、自分の中で妄想を膨らませ、
どんどん勝手に最悪な状況へとドラマを展開させた。

「早く帰らないと、オカンがいなくなってしまうんちゃうか」
「夕陽が沈むまでに堀川の陸橋を越えないと、帰られへんのんちゃうか」

世界の終わりかというぐらい切迫した気持ちになり、
心の中で泣きながら、必死になって自転車をこいで家路を急いだ。

先日、アートディレクターの丹下紘希さんとお会いした時、
私たちの世代には、根底に共通した子供時代のイメージがあるのでは
ないかという話題になり、私自身の京都での子供時代の話をした。
すると、丹下さんがアートディレクションを手掛けられた、
コブクロ「蕾(つぼみ)」のプロモーションビデオで伝えたかったのは、
まさにそういうことだとおっしゃった。「蕾」はリリー・フランキー原作の
映画「東京タワー」の主題歌になった楽曲である。

このビデオには偶然にも自転車をこいでいるシーンがあるのだが、
そのシーンで表現し、伝えようとしているのは“一生懸命さ”だと言う。
自転車のライトは一生懸命にこげばこぐほど、光が強くなる。
闇にのみこまれない“一生懸命さ”に照らされ、
手の平で作られた影絵は濃くなるのだ。

―― 愛おしくも、健気な、一生懸命さ。 ――

小学生の頃の自分の姿が重なる。同時に、模造紙からはみ出して
描いていても、怒らないでいてくれたオカンの姿も浮かび上がってきた。
影絵が動き出すように、原体験のワンシーンがリアルに動き出す。
深い部分を揺り動かされたような不思議な感覚。
奥底で眠っていた記憶が鮮やかに甦り、今に繋がる。

京都会場のブースでは、私の父がかつて働いていたケーキ屋さんの娘さんともお会いした。
会場に向かう京阪電車の中から、小学校の時に遊んでいた堤防が見えた。
小学校2年生の終わりに、私は同じ京都でも自然がある伏見へ引っ越した。
京都のど真ん中五条の細い路地から、思いっきり遊べる堤防のあるまちへ。
その頃と変わらない風景に、時を越えて時空が繋がるような感覚を覚えた。
おやつと一緒に番茶を飲んでいた子供時代がリアルに思い起こされる。
「キャトリエンムショコラ・進」の京番茶とミルクチョコレートを用いた
懐かしい味わいのショコラは、この頃の記憶に結びついている。

そんな幼い頃の記憶を呼び覚ます出来事が立て続けにあって、
私の奥底にしまわれていた何かが音を立てて動き出した。
京都の街中と自然と両方の環境で育ってよかったと改めて思った。
そして、「キャトリエンムショコラ・進」をやってきてよかった。
特別な想いのある京都で、そしてショコラのブースにいる時に
自身のルーツに繋がる思い出の人たちと出会えたことを嬉しく思う。
「間違いじゃない、自分でしかできない表現ができている」
と再確認できたような気持ちでいる。

この衝撃は私の根底でジワジワと効いてきて、
また思いも寄らない記憶を呼び起こしそうな予感がする。
それがこれから創るお菓子にどんな影響を与えてくれるかが楽しみだ。








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